統合失調症ナビ

監修: 藤田医科大学医学部 精神神経科学講座 教授
岩田 仲生 先生

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Aさん(女性、30代)の体験談一人暮らしがしたい!

監修:藤田医科大学医学部 精神神経科学講座
准教授 趙 岳人 先生

患者さんの体験談は、患者さん個人の経験によるものです。
すべての患者さんが同様な経過をたどるわけではありません。

ご家族(ご両親、妹さん)と暮らしています。

統合失調症の症状再発は2回経験しましたが、治療を受け、状態は落ち着いています。

現在、仕事は家事手伝いとして、家族で営んでいる事業の手伝いをしています。

  1. 発症~統合失調症とわかったとき

    Aさんは、高校卒業後に親元を離れ、都市部で働いていました。

    しかし、統合失調症の症状(被害妄想)が出てきて、会社の上司に「嫌がらせを受けている」、「財布を盗まれた」などと訴えるようになりました。

    会社でのトラブルがきっかけとなり、社内の人間関係が悪化してしまいます。

    会社の上司に連れられて受診し、統合失調症だとわかりました。

    入院したあとは、メディカルスタッフの助けもあり、落ち着きを取り戻したAさん。

    自らが病気だとわかったあと、妄想が原因で起こしてしまったことに驚き、落ち込みました。

    退院後は実家に戻り、ご家族のもとで暮らすようになりました。

    point!

    統合失調症の治療・ケアでは、ご家族やメディカルスタッフのサポートが欠かせません。

    さまざまな事情で頼れる家族のいない人には、身近なメディカルスタッフやお住いの地域の保健担当者が相談に乗ってくれます。ひとりで何とかしようとせず、必ず相談しましょう。

  2. 実家での療養生活(Aさん)
    • ご家族のサポートを得て、入院していたときよりもさらに調子がよくなりました。

      • 受診日などのスケジュールを、Aさん自身が確認できるようになった
      • 家族で食卓を囲めるようになった
      • 趣味の書道をまた始めたくなってきた
    • Aさんの相談相手は最初のうちは母親と妹さんでした。2回目の入院・退院後からは、訪問看護師にも相談ができるようになりました。

      point!

      実はAさんは1回目の退院時に医師から訪問看護を勧められたのですが、「家族のサポートがある私には必要ない」と断っていました。2回目の入院時に仲良くなった患者さんから、訪問看護で楽になるのは自分だけではなく家族も楽になると聞き、家族との近すぎる距離に少し悩んでいたこともあって退院後に訪問看護を受けてみることにしました。今では、訪問看護師がよき相談相手になっているようです。ご家族の訪問看護への印象も上々のようです。

    • Aさんは心の病気のことを周囲に隠しがちでしたが、相手によっては病気のつらさを言葉にして伝えるほうが楽になることを学びました。

      point!

      心の病気のことを、誰に、どこまで伝えてよいのか……悩みますよね。医師やメディカルスタッフ・訪問看護師などと直接相談できるパートナー・家族以外の友人・知人・関係者には、病名や精神症状を伝える代わりに「今とても疲れています」「これ以上無理はできません」「少し休みます」という、今感じていることをあなたの言葉で伝えてみてはいかがでしょうか。そこに医学用語は必要ありません。つらいときは「つらい」というサイン(声や文字)を出すことが大切です。つらいときのサインの出し方については、あらかじめ医師やメディカルスタッフ・訪問看護師に相談しておくとよいでしょう。

  3. 実家での療養生活(ご家族)

    ご家族が統合失調症という病気をなかなか理解できませんでした。

    そのため、まずAさんの母親がメディカルスタッフと一緒に勉強をして統合失調症への理解を深めていきました。

    母親は、「こういう病気なのですね。これはわかりませんでした」と感想を話しました。

    その後、母親から父親、妹さんに病気についての説明をしました。

    point!

    統合失調症について詳しく知りたい場合は、医師やメディカルスタッフまたはピアスタッフ・ピアサポーター(自身も当事者でありながら支援に携わる仲間)に尋ねてみましょう。医療機関などでは、ご家族参加型の「心理教育」「家族教室」と呼ばれる活動をしているところがあります。また、当事者がお互いの体験発表を通じて学びあう「当事者研究」という活動も広がっています。

  4. 再び一人暮らしを考えるように

    実家で療養してしばらく経ちました。

    Aさんは「趣味の書道を落ち着いてやりたい」と思えるようになるまでに回復し、もう一度一人暮らしにチャレンジしたくなってきました。

    妹さんは「以前も一人暮らしをしていたんだから、してみたら」と背中を押してくれました。

    ただ、ご両親は一人で暮らすことへの心配から、当初は反対していました。

    Aさんは訪問看護師とも話し合い、一人暮らしを実現できるかじっくり考えました。

    それでも決意は揺るぎませんでした。

    その経緯を見守っていたご両親。「再び“巣立ち”の時期を迎えた」と考え、訪問看護を週1~2回受けることを条件に了承したのでした。

    point!

    訪問看護をはじめとした社会資源・福祉サービスは、できる限り活用されることをお勧めします。このAさんのお話の裏側にも、ほかの社会資源・福祉サービスからのサポートが隠れています。

    Aさんは療養中に精神障害者保健福祉手帳と障害年金の取得ができました。一人暮らし用の資金が補填されたことも、Aさんの再独立を後押ししています。手帳を活かした障害者雇用、ハローワークなどでは就労などの支援もおこなわれています。

    再スタートを考えている人へ!

    あなたが何かの目標に向けてスタートしようと思ったときに確認してほしいことがあります。

    何かを始めるためには事前の準備が必要です。再スタートができる状態にあるかどうか、症状や治療についても確認をしてみましょう。

    以下の2つの項目がクリアできているかどうかをチェックしましょう。

    • 信頼できるメディカルスタッフや家族などのサポーターはいますか?
    • 現在の治療に納得していますか?
  5. 一人暮らしに向けて
    1. ステップ1

      一人暮らしの再チャレンジに向けて、母親は「まず、一人暮らしをすると思って自分の部屋を

      きれいにしてみたら?」という提案をしました。

      Aさんはそれを受け入れ、実際にやってみたところ、できました。

    2. ステップ2

      次にAさんがやってみたのは買い物や通院です。

      Aさんはこれもこなすことができました。

    3. ステップ3

      Aさんは、「一人暮らしをするなら、物件探しも自分でやれるくらいじゃないと……」と母親から言われていたこともあり、物件探しにもチャレンジ。

      訪問看護師に相談しアドバイスをもらいながら、不動産屋を何件も回りました。

      最初は実家から遠いところで暮らそうと考えていましたが、周囲の人々のアドバイスを受け入れ、実家からあまり離れていない地域を選びました。また、よい物件が見つからないときは“待つ”ことも学びました。

      物件探し中に体調を崩す時期もありましたが、通院間隔を短くすることでうまく対応できました。

    point!

    統合失調症患者さんに限りませんが、長い人生ですべての物事がとんとん拍子に進むことはありません。

    よい物件が見つからない、体調を崩すといった一種の挫折もあるでしょう。その挫折をどうやって乗り越えていくか、そのプロセスが将来にも活きる糧になります。

    再スタートの目標設定をしようとしている人へ!

    目標を設定しようと思ったときも、確認してほしいことがあります。

    以下の項目が4つともクリアできていれば、よい目標といえます。チェックしてみてください。

    • 現実的・具体的ですか?(Aさん:一人暮らしは以前もしていた)
    • 小さな達成感がありますか?(Aさん:一人暮らしができれば達成感につながる)
    • あなたが期待していることですか?(Aさん:思う存分に書道ができる期待)
    • 相談したことにより修正できることですか?(Aさん:遠方の一人暮らしから変更)
  6. そして未来へ……

    いまAさんは引っ越し先が決まり、入居日を待っています。

    いずれ、100円ショップなどで品出し作業のような仕事をしてまずは働いてみて、将来は子どもたち向けの書道教室を開けるようになりたい、という夢を持ちながら。

ご注意ください
本サイトで解説する病気の症状は典型的なものを紹介したもので、記載された症状がその病気をもつすべての方に当てはまるわけではなく、また症状のどれかに当てはまるからといってその病気であることを示すものではありません。治療法その他についても、あくまでも代表的なもののみを掲載しており、治療法すべてを網羅するものではありません。病気の診断および治療に関しては、必ず医師による説明を受けるようにしてください。