統合失調症ナビ

監修: 藤田医科大学医学部 精神神経科学講座 教授
岩田 仲生 先生

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あるはずのないものが現れる
「陽性症状」とは?1, 2)

陽性症状の「陽性」とは「本来あるはずのないものが現れる」という意味で、症状としては幻覚や妄想などがあります。統合失調症の代表的な症状であり、多くは急性期にみられます。

薬物療法や心理社会的療法によって急性期の幻覚や妄想(陽性症状)を早期に改善することが、治療の順調な経過につながります3)

<幻覚>現実にないものをあるように感じる

幻覚とは、現実にないものをあるように感じることです。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れるという人間の五感に対応するさまざまな幻覚が現れます。

なかでももっとも多くみられるのが、実際には聞こえるはずのない声が聞こえる幻聴です。その声は、自分に対する悪口やうわさであったり、「あれをしろ」「これをしろ」と行動を指示する命令であったりします。

そのほか、実際にはないはずのものが見える幻視、嫌な臭いや味を感じる幻嗅(げんきゅう)、幻味(げんみ)、普通であれば感じない異常な感覚を体に感じる幻触(げんしょく)、体感幻覚が起こることもあります。

体験している本人にとってはすべてが「現実」であり、周囲の人に理解してもらえないことに思い悩むこともあります。

<妄想>現実にはありえないことを事実だと信じ込む

妄想とは、現実にはありえないことを事実だと信じ込むことです。

自分の能力の過大評価、実際には存在しない地位や財産があるように思い込む誇大妄想や、周囲の人が自分の悪口を言っている、盗聴されていると思い込む被害妄想が代表的です。ささいな出来事や偶然を自分と結びつけてしまう関係妄想や、いつも誰かに見られている、監視されていると思い込む注察妄想も、被害妄想の一種です。

こうした誤った思い込みをもつだけでなく、柔軟で客観的な考え方ができなくなるため、周囲の人が訂正しても聞き入れることができません。

<自我の障害>誰かに支配されていると感じる

自分と他人の境界がはっきりしなくなって周囲の影響を受けやすくなり、自分の行動や考えを誰かに支配されていると感じるようになります。

<思考の障害>考えをうまくまとめられない

考えがとぎれとぎれになってうまくまとまらなくなり、話している内容に一貫性がなくなります。また、考えが次から次へとわき出してコントロールできなくなり、考えをまとめることがさらに難しくなります。

周囲の人は、患者さんの言っていることが理解できなくなります。患者さん本人は、相手に理解してもらえないことへのつらさを抱えることになります。

<行動の異常>極度に興奮したり、奇妙な行動をとったりする

急に激しく興奮して大声で叫んだり、逆に周囲からの刺激にまったく反応しなくなったり(昏迷)します。

同じ動作をくり返す「常同行為」や同じ言葉をくり返す「常同言語」、他人の言葉や動作をまねる「反響症状」といった、周囲の人からは奇妙に思われる行動がみられることもあります。

暴力や暴言は、急性期の幻覚や妄想が理由であることが多く、周囲の人に自分の思いが伝わらないことへの不満やあせりが、これらを増幅させている場合もあります。

参考文献
  1. 白石弘巳監修: 患者のための最新医学 統合失調症 正しい理解とケア. 高橋書店, 東京, 2015, pp. 24-39
  2. 糸川昌成監修: 健康ライブラリー イラスト版 統合失調症スペクトラムがよくわかる本. 講談社, 東京, 2018, pp. 12-19
  3. Hasan A, et al.: Dtsch Arztebl Int. 2020, 117(24), 412-419
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